3rd全国大会氷帝公演:全国大会準々決勝S1内 リョーマの独白内における 終助詞「(だ)っけ」について 一考察

◆導入

ミュージカルテニスの王子様3rdシーズン 全国大会 青学VS氷帝を観て今日まで、ずっと引っかかっていることがある。

該当公演は、10代目青学への代変わり後、初めての公演であった。
特にシングルス1は公演を増すに比例して熱気が増していくのが素晴らしく、エンドレス・ラリーの各選手のパートに込められたフレーズが面白かった。

特に試合の描写内でリョーマには、虚勢とも狂気とも心底の楽しさとも取れるような、高笑いにぎゅっと心臓をわしづかみにされるような感覚を得た。

問題は、越前リョーマが気絶しながらも先輩たち(青学レギュラー)に学んだ精神性を独白するシーンである。とにかく長尺をとった印象があった。
その中で今回注視したいのは、「河村先輩からは、努力と思いやり、学んだっけ」の部分である。

原作コミックでは「学んだっけ?」と表記される。
観劇後、原作コミックの「?」という表記に釈然としない。

少なくとも10代目越前リョーマの言いぶりからは、「河村隆から学んだことがあったか」疑念を抱いている意味合いの語調には思えなかったからだ。

以下はテニミュにおける台詞の語調から発し、全国氷帝戦S1内独白内「学んだっけ」の終助詞「っけ」の用法について検討し、
該当シーンが当該公演で、ならびに『テニスの王子様』でどのような機能を果たしたかを考察するものである。

◆品詞分解・用法について

「学んだっけ」について、簡単に品詞分解を行う。

「学ん(動詞)/だ(過去・完了の助動詞)/っけ(終助詞)」

終助詞「け」は、過去完了の「だ」を伴い、二つの意味に大別される。

①過ぎ去ったことを思い出して、軽い詠嘆の気持ちをこめて述べる。

②聞き手の関心や返答を誘うような気持ちを込めて質問する場合に用いる。

大辞林第三版「だっけ」より引用 https://kotobank.jp/word/%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%91-561239

①の意味合いで用いられたのならば、リョーマは河村との思い出や、河村にまつわる出来事を回顧して独白する場面となる。

一方、②の場合は、聞き手に対し、事の有りや無しやを問う意味になる。要するに単純な疑問形であり、さらに聞き手を想定した用法である。

シングルス1の該当する場面は「そういえば先輩たちからはいろいろ学んだぞ…」から始まり、青学レギュラーから過去に学んだこととして一つずつ述べるため、

②をこの場面に当てはめてしまうと、河村の場面のみ学んだことの有りや無しやを問うことになり、この場面にそぐわないのではなかろうか。(乾に対しては「データ…?」と疑問形を付すが。)

そこで、本件においては①を採用したい。

◆見えないもの

「っけ」の用法について、もう少し踏み込んで考えたい。

池谷知子氏は独話(心中発話)での「っけ」の用法について、独話(心中発話)であるにも関わらず、疑問を意味する助詞「ッケ」を付ける動機や機能は何か疑問を呈した。

結論として、「聞き手を不可視化することで、聞き手は話者の発話にアクションを起こす義務から解放される。さらに、「っけ」は話者の私的領域内に属する情報の中でも、自己(=話者)の体験になる情報を示す」とした。
https://ci.nii.ac.jp/naid/110008799626

当該の場面に当てはめてみる。

■話者=リョーマ(心中の独白)

■聞き手=その場には存在しない=読者・観客(その場に存在しない、回答のしようがない)

「話者の私的領域内に属する情報の中でも、自己(=話者)の体験になる情報」とは、すなわち「リョーマが河村から努力や思いやりを学んだエピソード」である。

読者、観客はこの場面で「学んだっけ」と疑似的に語り掛けられることで、リョーマと同じく無意識のうちに青学レギュラー陣とのエピソードを回想するだろう。
あるいは、この周辺からテニプリテニミュをはじめた人であっても「先輩たちとの交流、絆、経験がリョーマを立ち上がらせたのだ」と思わせる効果があることは言うまでもない。

また、リョーマのこの「回顧」は予兆的であると言える。

「思い出す」という行為が求められる場面は、この後『テニスの王子様』においてそのまま展開に表れる。

最終回間際、リョーマはテニスに関する記憶を失う。いままでのライバルたちはおろか、共に励んできた青学レギュラーについても忘却する。

リョーマは先輩たちやライバルたちとの試合の再現通じて、記憶を思い起こすのである。

ある種、フィナーレの予兆的展開と言えなくはないか。

また、テニミュの観客サイドにも、この「思い出す」作業が求められたのではないか。

3rd全国大会氷帝公演は先述した通り、リョーマ以外の青学レギュラーメンバーが代替わりしたすぐ後の公演である。

前公演から観ていた/観続けていた観客に対しエピソードの回顧を促し、現行青学と先代をつなぎ合わせる役割があったのではないか。

下記の通りにまとめる。

テニプリにおける役割

勝戦では「経験」や「記憶」がキーとなる。読者はこのシーンを通じて、エピソードを「思い出す」作業を行う。フィナーレにおけるリョーマに対して予兆的な現象であり、フラグ・復習の役割を果たす。

テニミュ:特に3rdシーズン全国大会氷帝公演における独白場面の役割(特に長く尺をとって演出したことに考察として付す)

代替わりすぐの公演である。目の前のキャラクター(現行キャスト)と今までの公演で観てきたキャラクター(卒業キャスト)、イメージのすり合わせを行う。